「……ありがとう…」

七海はそう言いながら、微笑みを浮かべて涙を流していた。

「ファンの人達のこと…大好きなの。何にも変えられないくらい。

でも…どうしても顔は出せない」


涙を手で拭いながら

「覚えててもらいたいの。一握りの人だけでもいい…忘れないでいてくれたら」

そして満面の笑みを浮かべたけれど、それはどことなくぎこちなくて…
作り笑いなんだろうと感じた。


「…enは世界の歌姫だろ?こんな厳しい芸能界だけど、簡単に消えたりするわけ…」


「消えるんじゃないの」


「…七海、そろそろやめなさい。決めたんでしょう?」

まどかさんが諭すように七海に声をかける。

「うん、まどかさん。少し喋りすぎたみたい」

七海は頭を掻いて、口を閉ざした。


「那智、今の話、絶対に誰にも話すんじゃないわよ。エミリーも頼むわ」

俺とエミリーは黙って頷いた。


「…じゃあ二人はスタジオに戻って練習を続けてちょうだい」


「…わかった」

仕方なく、俺達は社長室を出て行った。