「実際、雑誌で特集を組んでもらえたり、歌番組からの依頼も多い。ありがたいことにね」


「…それ本気で言ってるのか…?」

俺は少し七海を睨んだ。
七海はびくっと体をひるませたがすぐに

「…本気だよ‼逃げたの、私は‼」


「違う‼

…俺が本気かって聞いたのはそっちじゃない…。
本気でお前は、素性を隠しているから雑誌でも特集を組まれて、歌番組からの出演依頼も多くて、楽曲提供もしてもらえてるって思ってんのかって聞いたんだ」


「………」


「お前だってわかってるだろ。素性を隠すくらいで仕事が増えるなら全ての芸能人がやってる。でもそれで本当に仕事が増えるわけがない。

お前だからだよ。enだから、七海だからだ。
素性を隠していても歌が大した事がなかったら世界なんていけない。それ以前に日本でも相手にされない。むしろ叩かれる。そういう業界だ」

七海は黙ったまま床を見つめていた。


「それにそこまでお前が行けたのはファンのおかげだろ?その人たちのためにも顔出ししたらどうだ?」


「那智、前に言ったでしょう。」

まどかさんが怒気を含んだ声で注意してくる。

「en…七海には七海の考えがあるって」


「でもまどかさん。こいつのファンは素顔を見て離れて行くような人たちじゃないだろ。顔を隠して活動してついたファン…だからこそきっぱり言える。
enのファンは、enの歌声に惚れた人達なんだって。

そんな人達がenが素顔を出した途端に、素性がわかったからもういいですさようなら、なんてなるわけないだろ!?」

俺がそうだった。
enの才能に嫉妬し、同時に羨ましくもあり…ファンなんだ。
enの歌が好きなんだ。