「まあこれで少しすっきりしたよ。
…それで七海に聞きたいことがある。
……なんで顔と、歌声以外の声を隠して活動してるんだ?」
「那智‼」
まどかさんが椅子から立ち上がる。
「お母さん、いいよ…気になるのは当然だもの」
七海はそれを制して、まどかさんを落ち着かせる。
七海がまどかさんの事をお母さん、と呼ぶのを聞いたのは初めてだった。
「気になるよね、当たり前のことだよ」
七海は笑って俺の目を見る。
「私が、歌声、性別、所属事務所…それ以外のすべての事を隠しているのはね…
消えたく、ないから」
はっきりと、きっぱりと七海はそう言った。
「消える…?
お前は日本だけでなく、世界的な歌姫だろ?そんなenが消えるなんて…」
俺がそう言うと、七海は首を横に振った。
そしてぽつりぽつりと話し始める。
「無いなんて、言いきれない。どんなに知られていても消えないなんてことは無い。忘れられるのが怖いの、私は。
…私以外の芸能人の人は、顔を出して活動してるよね。必死に戦ってる。顔を出して、行動にも気をつけて…ファンが増えるように、ファンが減らない様に…
私はもともと歌しか武器が無かった。だからその戦いには向いていなかった。それで、逃げたくなって…。
私は思いついたの。素性を明かさない様にすれば、そのミステリアスな雰囲気から人の目は向くって…
ほら、やるなって言われたことを人はやりたがるでしょ?それと一緒。
こっちが情報を公開しなければ、自然と人の興味は集まって、私の正体を明かそうとする。
人に忘れられたく無くてそうしていたの。
…ずるいでしょ?」
七海は今にも泣き出しそうな顔をしていた。



