「…那智君?」

七海が俺の顔を覗き込む。

「どうかした?」

七海は心配そうに俺を見つめた。


「…いや、大丈夫。ちょっと世界進出が信じられなくて…」

俺は作り笑いをしてごまかした。


「…エミリー、この後は何かある?」

まどかさんはエミリーに対して、ずいぶん真剣な顔をしてそう尋ねる。

「この後はこの子達と練習よ。新しい曲を少しでも早く覚えてもらいたいし…」


「そう。…少しの間、抜けられるかしら」


「…まあ、少しなら…」

エミリーもまどかさんの今まで見たこと無いような真剣な表情に戸惑いを隠せない。


「じゃあ社長室に来て頂戴。七海も、那智も。
他のメンバーはエミリーと那智が戻るまで練習しておきなさい」

そう言って踵を返したまどかさんに、誰も反論できなかった。

俺とエミリーと七海は、黙ってまどかさんの後を追う。

エレベーターの中でも無言の状態は続いた。


社長室に入って、まどかさんは社長の席に座る。
重苦しい空気を破ったのは七海だった。


「まどかさんどうしたの?顔が怖いよ?」


「ああ…ごめんなさいね…ちょっと大事な話をしようと思っていたから緊張してしまって…」

まどかさんは椅子の背もたれに寄りかかり、頭は後ろの窓の方へと反り返す。

「那智ー」

そんな状態でまどかさんに呼びかけられる。