「ただいまー」
家にいる母さんに帰りを告げる。
「お帰り那智、ご飯食べるでしょ?」
「ああ。でもその前に風呂入る」
リビングには寄らず、一直線に風呂を目指した。
シャワーで温まってから浴槽に浸かる。
湯気を深呼吸で吸って、喉のケアをした。
自分の可能な限りの音を出してから浴槽を出る。
上がり湯を浴びて風呂を出て、着替えてリビングに向かった。
「お、丁度」
俺がリビングに入ったのと同時に母さんがテーブルに料理を並べ終わった。
時刻は六時半。
「いただきまーす」
少し早い夕食を頬張りながらテレビをつける。
enが出るであろう歌番組は七時から。
それまではニュースを見ていた。
夕食が食べ終わり、皿を洗い終えた時には、もう歌番組が始まっていた。
けれど人気のあるenは中盤か終盤…
今日の番組では終盤だった。
enが歌うのは、新しく始まるドラマの主題歌になるみたいだった。
この番組で歌うのが、初披露になる。
伴奏が始まり、enはマイクを握り締め、口元へと運び…
「………え…?」
俺は目を見開いた。