地下の駐車場の階のボタンを押し、扉が閉まると、エレベーターは下降を始める。
「…仕事って、接待とか?」
「違う違う。enよ。歌番組に連れて行くからそれで…」
やっぱりen絡みの仕事か…。
まどかさんはenのチーフマネージャーでもあるから何となくそんな予感はしていた。
エレベーターが軽快な音で、指定した階への到着を告げる。
俺はまどかさんの後につづき、車に乗り込んだ。
まどかさんが運転席で、俺は後部座席。
車はゆっくりと発進し、地下を抜けて夕暮れの中を走って行く。
「那智、どう?エミリーとの特訓は」
「びしばし鍛えられてるよ。英語の会話はなんとか出来るようになったし…」
「そう、ならよかった」
ミラー越しにまどかさんが笑っているのがわかる。
「…今日、七海は?あいつenのマネージャーでしょ」
俺は少し鎌をかけてみた。
「ああ、あの子はお休み。いつもenに付き添ってもらってばっかで悪いからね」
もちろんそんなものにまどかさんが引っ掛かるはずもなく、綺麗にかわされてしまった。
きっと七海は、enとして準備中なんだろう。
俺は窓の外の景色を眺めながら、小さくため息をつく。
「………嘘つき…」
キキーッと車が停まる。
前を見ると赤信号だった。
「何か言ったー?」
まどかさんが朗らかな声でたずねてくる。



