エミリーは水筒の蓋をキュッと閉め、カバンにしまってから

『男ならグダグダ言わない!!』


『男でなくても、こんなスケジュールなら誰でもグダグダ言うよ…』


『あら、じゃあ世界は諦める?』

にっこり笑った。

断れない、諦めるなんて言わないってわかってるからこんなことを言ってくる。


『諦めるわけないだろ…』


『よく言った‼よし、じゃあ今日はここまで。明日はsabotage全員でここに来て頂戴。成長を確かめてからアルバムの制作開始よ』


『…了解‼じゃあお疲れさまでしたー』

俺は荷物を持ちスタジオを出て、エレベータを待っていた。すると…


「あ、那智」


「まどかさん…」

俺が練習をしていたのは会社の中にあるスタジオだから、誰にあっても不思議ではない。
でもこの時間にまどかさんに会うなんて…


「偶然ね、もう終わったの?」


「ああ。だから今から帰ろうかと…」

俺がそう言うと、まどかさんは腕時計をのぞいてから

「送ってあげましょう。家まで」

そう言って、スーツのポケットから車のカギを取り出した。


「え、でも…」


「あんたねぇ、自分が芸能人だって自覚持ちなさい?」

まどかさんはため息をつきながらカギをくるくると回した。

でもまどかさんが車のカギを持ってるってことは…


「…仕事じゃないの?」


「仕事よ。でもまだ時間あるから平気。ほら行くわよ」

まどかさんは俺の手を引いて、エレベーターに乗り込んだ。