未熟…一体どうして…

俺とenの差、それは歌に込める感情…

『…歌に感情がこもってないってことですか?』


『そう。昨日私は、あなた達のCDを聞いたわ。失恋ソングのね。

那智…あなたが失恋したことなんてない、そう答えるならまだ許したわ。でもそうでないなら…あの歌は何?』

エミリーの声のトーンが一気に下がる。

心なしか、空気がひやっとする。


『失恋したっていう歌なのに…悲しい気持ちが一切伝わってこなかった。泣けない。
それともあなたは、失恋しても悲しくならない人なのかしら?』


『…違い、ます』


『そうよね、普通そうだわ。

那智、歌うってことは大抵、聞いてる相手を歌の世界に引きずり込むことよ。
失恋ソングを歌うなら、失恋した時の感情を相手にも味わわせるの。歌を通して。

…現に、enはそこが長けている。だから歌を聞く観客が泣き、笑い、喜ぶ。喜怒哀楽が聞いてる表情に自然と出る…』


『でも俺も…精一杯悲しみを表現したつもりです』


『歌ってる時、泣きそうになる?』

エミリーは腕を組んで、そう聞いてきた。


『………』


『…那智、あなたが言う表現した、は、技術を使っただけにすぎない。
悲しみを表現するために、サビの部分で声を掠らせた。良い技法よ、確かに。でも…技術、だけ。

そんなんじゃあenには一生かかっても追いつけない』

エミリーは手を組みかえた。


『…失恋した時の…気持ち…』

俺がそうつぶやくとエミリーは組んだ腕をほどき、嬉しそうに指をならした。

『そう‼わかってるじゃない那智‼成長してるわね‼』