エミリーとの特訓が始まって四週間が経とうとした頃のことだった。

『那智、あなた失恋したことある?』

急にエミリーが英語でそんなことを尋ねてきたのだ。

エミリーが聞いていることはわかった。
答えをどういう風に英語で言えばいいのかもわかっていた。


けど、突然そんな質問をされたら、誰でも固まってしまうだろう。

俺が固まってしまって答えをなかなか言わないので、エミリーは

『どうなの?』

と答えをせかしてきた。


『えーっと…あります…』


『そう、なら問題ね』

エミリーはため息をつきながらそう言った。


…問題?失恋をしたことがある、ということのどこに問題があるのだあろう…

俺が考え込んでいると、エミリーは慌てて

『ああ、失恋したこと自体に問題があるわけじゃないのよ。ただ…』


『ただ?』


『あなたって歌手として未熟だなあと思って』

…なんて、エミリーが笑顔でそういうものだから初めは自分が英語の会話をちゃんと理解できてないんだと思った。


でも違う。

はっきりとエミリーは間違いなく、俺が歌手として未熟だと、そう言っていた。


『未熟…』


『そう、未熟よ』