「…すみません、自分自身に何が足りないのか、俺はわかりません」
「そりゃそうよね。わかってたらとっくに世界に行ってるもの」
エミリーは短く笑った。
俺に何が足りないか分かっていたら世界に行けていた…?
つまりは、俺がsabotageの足を引っ張っていたのか?
「あなた、enを目の敵にしてるんですって?
enの歌を聞いたことはある?それを聞いてる人の表情を見たことはある?」
「歌番組で何回か共演したので、どちらも経験しました」
「そう。それを見て何か気づいたことはある?」
エミリーが腕を組んで聞いてきた。
まるで俺を試すかのように…
「……この前の歌番組では、失恋ソングを歌ってました。
enの歌は、高低の振り幅が大きくて…歌い終わった後、観客が……‼」
そうだ。
あいつが歌い終わった後の観客の表情は、「悲しい」だった。
失恋ソングを歌った時の観客の表情が「悲しい」になる…
「気づいたみたいね」
エミリーの声にはっとして顔を上げる。
「enは歌に感情がこもってる。しかもそれが観客にも伝わる。
これがいかにすごいことか…同じ歌手ならわかるでしょう?」
ああ…わかるさ、わかるとも。
俺があいつと同じ歌を歌っても、そういう結果にはならないってことも…



