切符を買い、電車に乗り込む。

顔を隠していないが、誰も気づかない。

「ねえ…あの人、sabotageの那智に似てない?」


「あ、ホントだ‼すっごい似てるね…」

気づいたとしても、『そっくりな人』で片づけられる。

学校で気づかれるのは、そこに俺が通っているという事実があるから。

こういうふうに電車に乗っていても気づかれないのはあのsabotageの那智が電車に乗っているわけがないと思いこんでくれているから。


「…ありがたいよな」

口元に笑みを浮かべたら、事務所がある中目黒についた。


電車を降りて、改札を出る。

事務所は駅から歩いて五分の距離にある。


正面玄関から入り、三階フロアにいるマネージャーの元に行く。

「こんちはー」


「あれ那智、どうしたの?今日はオフよ?」


「ちょっとまどかさんに話があって…

社長室にいる?」


「いると思うわよ。行ってくれば?」


「言われなくてもそのつもり」

俺は廊下に出て、エレベーターホールに向かう。


上行きのエレベーターを呼んでから、まどかさんがいる最上階のボタンを押した。


エレベーターは加速しながら最上階を目指す。


…この時に引き返していたら、まだ間に合っていたんだ。