「待ってください!」

あと少しで部屋の中に入れると思ったところで男性に手首を捕まれてしまった。
振り払うことが出来ずに恐怖で体が固まる。
イヴが怖がっていることに気が付いた青年はイヴの手を離し怖がらせないようにと優しく微笑んだ。

「怖がらないで下さい。私は貴女とお話がしたいだけなのです。私の名はクラウド、貴女はの名を聞かせてほしい」

「………イヴと、申します」

話がしたいだけだと言われても信用なんて出来なかったが嘘をついている様子が無かったために警戒を緩めないまま名を答えた。
クリーム色の髪が風で空を舞う。
桜の花弁とイヴの髪が合わさり綺麗な模様を夜空に月の光を借りて写し出す。
それにクラウドは目を細め、イヴを怖がらせないようにしながらも美しいその髪に触れてみたいと一瞬でも思った。

「……クラウド様は、何故此所に?此処は後宮の末端ではありますが後宮内。王の耳に入りましたら大変です。今すぐ立ち去った方が宜しいですわ」

イヴの突然の言葉にクラウドは目を丸くし、それからフッと穏やかな笑みを浮かべた。

「貴女は優しい方なのですね。私はこの桜ノ宮の門番をしております故に大丈夫ですよ」

門番をしているという言葉に目を丸くした。
それならば見回りでこの中に入ってきても可笑しくはない。
イヴは安心したような笑みを浮かべると庭にある白いベンチにゆっくりと腰掛けた。