それはとても悲しい唄で、静かな桜ノ宮には良く響いた。
庭にある桜の木々は花弁を散らしまるで唄に合わせて舞っているかのようにも見えた。
イヴはその様子に目を細めて唄を止めれば立ち上がり持ってきた数少ない持ち物の中から一つだけ美しく綺麗な扇を取り出しそのまま庭へと降りる。
ふわり、ふわりと舞う桜の花弁の間に立つと扇を広げゆっくりと手を上げて踊りだした。
緩やかに下へ腕を下ろし手首を軽く捻り扇を回し片手は袖を押さえ、また緩やかに上へ。
足は手の動きに重なるように右足を少し前に左足を少し後ろへ、両腕で円を描くように動かせば上半身を少し捻り顔を隠す。
見ている者がいたならば魅了されている筈の舞を見ている者はいなかった。
舞が終わると同時に扇を閉じると何処からか小さく拍手が聞こえてきた。
その音にビクリと体を震わせ誰だと警戒した。

「驚かせてしまいましたか……?」

柔らかな声音と共に現れたの深緑の瞳を持つ白銀の髪を靡かせる美しい青年。
その美しさにイヴは言葉を失い見詰めていたがハッとして顔をそらし離れようとした。
舞っているところを見られただけではなく借りにも此処は後宮。
王以外の男性が立ち入るなど特殊な事情がなければ許されるわけなどなかった。