「地下室の“アレ”もう好きにして良いよ」
 彼が、何て事もなく、とてもくだらない話を軽くするかの様に、書類を見ながら言った。
 「かしこまりました」
 私はそれだけ言って、彼の書斎を出る。
 彼の言う“アレ”・・・本来は決して軽く話せるようなものではないけれど、彼にとっては、所詮その程度だったのだろう。
 私は、地下室へと足を運んだ。彼の仕事が終わる前に、要らなくなった“アレ”を処分しなくてはいけないからだ。
 地下室へと続く石の階段と壁は、日が当たらない為か、何処かヒンヤリとしていて気味が悪い。
 暗がりも嫌いだから、私はあまり此処には来ない。足音が反響して響くのが、何だか怖くて、いつも後ろを振り返りながら歩く。
 階段を下まで降りて行くと、少女が椅子に座っているのが見えた。
 この女の名前は何だったろう。確か、歳は私と変わらない筈だが・・・。
 「啓一ろ・・・あら?貴女だったの。何かご用?」
 私足音を、啓一郎様と間違えたようだ。
 彼の言う“アレ”とは、この女の事で、此処に連れて来たのは私だ。
 彼が、この女を見て「欲しい」と、一言言ったから。