この日を境目に

純一は

仕事を少しでも引き上げて

有喜に会うようになった。

仕事が遅くなる日は

途中抜け出して

顔を見に来るようになり、

2人のノートは

着実にページを重ねていった。

幸せを実感しているのもつかの間、

家に一本の電話が鳴った。
 
「もしもし。
 
 はい。はい…。

 わかりました。」

母はトーンを落とし

電話を切った。
 
「有喜、

 お父さんの病状が

 悪化したようなの…。

 お母さんまた行こうかと思うんだけど、

 有喜も一緒に行く?

 それとも…

 留守番一人で大丈夫?」

母は少し心配そうに

有喜の顔を見つめた。

今は有喜の側を離れたくないのが現状だが、

同じ病気であり、

そのうえ悪化している父の姿を見せると

ショックを与えてしまうと考えた母は、

できるなら

父の姿は見せたくなかった。
 
「大丈夫よ!」

有喜は笑顔で答えた。
 
純一が

「もし良ければ、

 お母さんがいない間、

 俺が有喜の側にいましょうか?」

と言った。

純一は反対されるだろうと思っていたたが

返事は意外とスムーズだった。
 
「そう?

 助かるわ!

 布団は押入に入ってるのがあるから、

 それ使って!」

そう言い、母は

直ぐさま家を出る準備をした。
 
母は駅に着き

手際よく手続きをした。
 
「新幹線も

 慣れたもんだわ!」

と相変わらず独り言を

ブツブツ言いながら

新幹線にそそくさと乗り込んだ。

新幹線に乗ると

5分も経たないうちに母は

眠りに入った。