次の日、

有喜は旅行のパンフレットを手にしている。
 
「このパンフレット、

 こんなにいっぱいどうしたの?」

母は、やっぱり…。

と言った表情をしていた。
 
「あなたと旅行に行こうと

 純一さんが持ってきたのよ。

 好きなの選びなさいって行ってたわ。」

母は精一杯の笑顔で振る舞うが、

その表情は硬く濁っている。
 
「そうだったの…。

 私覚えてないやー。

 もう、最近忘れっぽいなー。」

有喜にはただの

物忘れだとしか感じず、

深く考えてはいないようだった。

有喜の病状の進行は

手に取るように解った。

記憶障害が思ったより激しく、

アルツハイマーは周りが思っていたよりも

有喜を蝕むのが早かった。
 
数日後、

純一と有喜は

温泉旅行に行く事に決めた。

純一は記憶障害の酷くなった有喜が

旅行を忘れないようにと、

カレンダーに日にちと日時を記載した。
 
「毎日見るカレンダーに

 時間と場所を書いておくから、

 この日までに準備しとくんだよ。」

純一はそう言って

部屋を後にした。

仕事が手放せない純一にとっては、

旅行のために数分会う時間を取るのが

やっとだった。

有喜が寂しい顔をすると

母はすかさず慰めにやって来る。
 
「純一さんは、

 有喜と旅行に行くために、

 今一生懸命仕事をこなしてるから

 少し我慢してあげてね。

 有喜と純一さんの心は

 1つだから、

 あんたは何も心配する事ないのよ。」

有喜はその言葉を聞き、

安心した表情をしていた。

最近の有喜には

鬱状態があまり現れてなく、

母も少し安心していた。