「結局どこが笑えるのかよくわからなかったけど、なんとかなれそうなほどの知識は頭の中に入った」




会議の資料らしき紙の束をパラパラと枚数確認しながらそう言う翔くんをわたしは目をパチパチとさせながら見つめた。




「あと、昨日は遅かったからまだ寝てろ。お前のことだから絶対にまだ頭は寝てるはずだからな」




紙束をバックの中に入れて、翔くんは風の如く部屋から出て行ってしまった。




…………シュー…ボフンッ




翔くんがいなくなったことで一気に緊張の糸が途切れてしまったわたしはベットに倒れた。




翔くんがありがとうって…ありがとうって言ってくれた。




こんな、こんな嬉しいものなのか。人に『ありがとう』って言われることは。




しかもあの翔くんから言われたのだ。嬉しくないわけがない。




「えへへへっ…」




絶対ににやけている顔の頬を押さえながら、わたしはさっきの翔くんの声での『ありがとう』を頭の中でリピートしていた。



……………………




んっ?ちょっと待って…わたし、なんでこんな喜んでるんだ?




駄目じゃん!翔くんの役になんか立っちゃ!!




ガバッとベットから起き上がり、わたしはなんとか冷静さを取り戻そうと、頬をペチペチと叩いた。




そうだよ、美咲!!思い出せ!お前はあいつにいったい何をされた?




あの胸の痛みをもう一度味わいたいの?あの胸が張り裂けそうで、息も出来なくて、死んでしまいそうなあの痛みを。




また同じことを繰り返す気?




わたしは誓ったんだ。もう二度と…二度と翔くんなんか好きにならないって。




そう誓ったはずなのに…胸の奥がチクッと痛くなったような気がした。