そんなこんなでわたしは今、母さんに最後の最後の化粧直しをしてもらっているのけれども
「嬉しいわ~。お母さん、娘が生まれたら結婚式のヘアメイクは絶対に自分でするって決めてたのよ。夢が叶ったわ~」
わたしの髪を整えながら、母さんは意気揚々とそう語る
そうえいば母さんにこんな風に髪を整えてもらったのって何時振りだろうか?
中学に上がったころには既に今のストレートな髪型だったから、随分前のことだ
立て続けに男の子ばっかり生まれてきていたので、女の子が初めて出来たとき、母さんも父さんも相当嬉しかったようで、今思えばわたしはたくさんの愛情を注がれて育ってきた
だから嬉しそうな母さんを見ていると、こっちまで嬉しくなってきてしまう
それにわたしは母さんにはとっても感謝している
「ねぇ、母さん」
「何?」
「わたしを、花菱美咲として産んでくれてありがとう。もしわたしが花菱美咲じゃなかったら翔くんと出会うこともなかったし、好きになってもらうこともたぶんなかったと思う」
今更なに消極的なこと言ってるんだと思われるかもしれないが、わたしが翔くんと出会えたのはきっとわたしが花菱美咲としてこの世に生を受けたから
もしわたしが花菱美咲ではない誰かだったら、きっと翔くんに見てはもらえなかった

