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自分を呼ぶ声が聞こえ、後ろを振り向いてみたが、誰もいなかった
空耳かと思い、前を向くと、窓の向こうには夕日が沈む前の街がオレンジ一色に染まる美しい光景が広がっていた
本当にここの景色だけは昔から変わらないなぁ・・・
と思いながら輝は一歩、また一歩と部屋の奥に座っている祖父の元へと近づいた
「あと少し、あと少しで設楽を出し抜くことが出来るんだな。なぁ、輝?」
自分がついた目に見えた嘘を疑うことも出来なくなるほど、祖父はおかしくなっていた
少しずつ崩壊していく彼を見ていくことがこんなにも辛いことだなんて思いもしなかった
「そうだよ、お爺さん。もう少しでお爺さんの夢が叶うんだよ」
だけど、嘘をつき続けなければいけない
結城が完全に倒産するその日まで
ごめんな、爺さん
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堕ちていく
手のひらから地面へと流れ落ちた砂はもう二度と手の中には戻ってはこない
空っぽになった手のひらをぎゅっと握りしめ、そして前を向く
目の前にあった砂の城はもう殆どなくなっていた
あと少し
あと少しで全部終わる
その時、落ちていく砂を掬い上げようとする手があったことに、まだ誰も気づいてはいなかった

