「そして、その可愛さが余ってか悪い虫が、しかも泣き虫で弱虫でおまけに阿呆な虫が一匹つきました」




紙には豆粒ほどの虫が描かれてあり、その虫から大量のハートが美咲に向かって描かれていた、そして『翔』とそこには矢印が向かっていた。




「悪意がある」




「むしろ、悪意しかないから、安心して」




そう言って、春はまた何かを書きはじめた。




「美咲が生まれたら、翔くんずーっと花菱に通ってたよね、もう見ない日はないってぐらい、その度に僕たちに苛められて泣く羽目になっても、懲りずに来てて…毎日違う悪戯を考えるのがめんどくさかったことを覚えてるよ」




本当に懐かしむように思い出話を語りだしたぞ、この人は。




「まぁ、そして君が本当に毎日のように美咲に会いに来たおかげで君のすりこみ作業は成功し、美咲も君を好きになった、すりこみでね」




事実だが、そんなわざわざ『すりこみ』という言葉を強調しなくてもいいんじゃないだろうか?



胸にぐさぐさと何かが刺さってくる。




「はーい、ここ。この『すりこみ』ってワード重要ね。ちゃんとメモしてね、次の試験に必ず出るからー」



秋は紙の上にでかでかと書かれた『すりこみ』に丸をつけた。




なんか楽しんでいないか、この二人…




「とりあえずここの8年間は普通だったね、見るからに仲良しすぎる幼なじみで、翔くんは苛めてもあんま泣かなくなったし、美咲なんて翔くんのところに逃げちゃうし、本当につまらなかったなー」