可能性を得るために平気で大切なものを捨てる覚悟なんてものこの双子にはないんだ。




それが彼らには当たり前だからだろう。




諦めようとしたのに、未だに未練だらけの俺とは大違いだ。




やり直すか…



俺も今更だが、やり直せることが出来るのだろうか?




ちゃんと一からやり直して、今度こそ美咲を泣かさないように。







「あっ、そうだ。翔くん、ちょっと言い忘れたことがあった」




用件が済み、部屋から出ようとした双子が急に振り向いた。




「…なんですか?」




これ以上、何か自分に言いたいことでもあるのか、この双子は




内心、何を言われるのかビクビクしながら待っていると、二人はにたぁーっとまるで面白いことを見つけた苛めっ子のような、まさに幼いころ散々見てきた笑顔で楽しそうに言った。




「僕たちの夢はね、花菱を世界に返り咲くことだけじゃなく、世界一の企業にのし上がるつもりだよ」




「だから、君も油断しないほうがいいよ。本気を出した僕たちに怖いものなんて何もないんだ





・・・本当にこの双子は言うこと全てが一々癪に障る。




でも




「やってみれるものなら、やってみてください。言っときますけど、世界一は伊達じゃないですよ」




今回ばかりは不覚にも胸が躍ってしまった。




早く見てみたい、この双子の下剋上、どん底からの逆転劇を。




「これは宣戦布告だよ、翔くん」




「首をながーくして待っててね」





そして、扉が閉まり、双子は部屋からいなくなった。





これが全ての始まりだった。








が、現実は本当に思った通りになるはずもない。




久しぶりに会った美咲は確実に俺を敵視していた。まるで親の仇を見ているかのような目で俺を見てくる。




いや、嫌われているのは予想通りだ。




問題はここからどうするかだ。




法的に夫婦だといっても、美咲と俺の距離はあまりにも遠すぎる。




結婚なんかしても美咲の俺嫌いが治るはずもない。




つい先日の2年ぶりの再会も普通に失敗に終わった。




結局美咲を目の前にすると、俺はいらん事言うわ、するわで見事に平手を食らった。




ますます嫌われた気がする…というか嫌われた。




また自分の馬鹿さに呆れつつ、美咲に平手ではたかれたことに驚いた。




なんか…この2年間で性格が恐ろしく変わっているような気がするのは、俺だけだろうか?




2年前までは穏やかで多少お転婆でもどことなく雰囲気は財閥の箱入り娘だった気がするが…






「……なんだ、この穴は」




美咲が設楽に嫁いでまだ数日も過ぎていないある日の朝、食堂付近の廊下の壁に何故か穴が開いていた。




隣にいた桂に尋ねると、桂は困ったように眉を顰め、言いにくそうに口を開いた。