「何度も言っているが、俺は忙しいんだ。お前と遊んでいる暇なんてない」




そこまで言うと、美咲はしばらく俯いていたが、すぐに顔を上げて



「そ、そっか。そうだもんね、毎日翔くん忙しいもんね。わたしなんかと遊んでたら駄目だもんねー。ごめんねー」




見え見えの作り笑いで明るく振る舞った。




「…本当、ごめんなさい…」




けど結局その強がりはすぐに崩れ、美咲の声は段々と小さくなっていき、肩を震わせていた。




「じゃ、じゃあわたしそろそろ部屋に戻るから。じゃあね」




この場から逃げるように廊下に走っていった美咲の後姿を暫く眺めた後、俺は玄関ホール正面で待っているであろう車に向かった。





車の中に入り、運転席にいる桂とバックミラー越しに目が合うと、桂はいつもの笑顔で尋ねてきた。




「今日もですか、翔様?また泣かせてしまったのですね」




「…」




俺の反応を見て、少し困ったように肩を下ろした桂は何も言わずに車のエンジンをつけた。




「それでは、屋敷に戻りますが、本当によろしいのですか?」




「…何が?」




桂がいったい何のことを言ってるのかはわかっていたが、俺はわかっていないような素振りで返事をした。





「…そうですか、それでは行きますよ」




諦めたようにハンドルを握った桂を見て、やっぱり…と声をかけようとしたが、それは言葉にならず、寸前のところで止まってしまった。