「かっけーるくーん」




父の仕事の関係で花菱の屋敷によると、そこにはいつも彼女がいた。




俺を見つけるたびににこにこと近づいてくる美咲に対し、いつからだろうかちゃんと向き合えなくなってしまったのだ。




幼いころはただただ一緒にいるだけでよかったのだが、この時から俺はまっすぐ美咲の目を見て話せなくなり、すぐに彼女から逃げてしまう。




理由はわからないが、美咲を目の前にすると、急に頭が真っ白になり、何を言っていいのかわからない。




何度も何度も頭に言うことを叩きこむが、美咲の笑顔を見ると、なぜか全部吹っ飛んでしまう。



その日も俺を見つけ駆け寄ってくる美咲を無視し、俺は前を向いて早足で歩いた。




すると




「やぁやぁ、翔くん。無視はないんじゃないかな?無視は?」




「そうだよ、折角美咲があんなに呼びかけてるのに」




両脇から突然にょきっと現れたのは美咲の双子の兄、春と秋だった。




物心ついたころから俺はこの二人が苦手だった。




「今日は父の付き添いでついでにこの屋敷を寄っただけだ、あいつの遊んでいる暇なんてない」



そう言い切ると、双子はにたにたと笑い、お互いの顔を見合わせた。




「「へぇ~…」」