「あなたが好きです」
その言葉を聞いた途端、自分の中で何かがガラガラと音を立てて崩れた。
それはいったい何だったか今はよく思い出せないが、気付いたら体が勝手に動いていた。
結局、自分は彼女の前だと思った通りにいかないらしい。
まぁ、そんなのは彼女と出会ったその時からわかりきっていることだけど。
昔からいろんな人に
『美咲ちゃんは本当に、翔にべったりねー』
と言われてきたが、実際は違う。
美咲が俺にべったりだったわけではなく、俺が美咲に付きまとっていたんだ。
今聞いても恥ずかしいが、あの双子によると幼いころの自分は毎日のように生まれたばかりの美咲のところに訪れていたらしい。
そしていつも何をするわけでもなく、ただただ美咲の顔を眺めていたり、手を握ったりしていたらしい。
いろんな人が美咲が俺に付いてきてるように見えたのはたぶん、よくあるすりこみのせいだ。
まだ自我もない幼い時期から毎日のように顔を見に来た俺を彼女はきっとたくさんいる兄の中の一人にでも思ったのだろう、一番顔に見覚えにある俺の後についてくるのは当たり前のことだった。