設楽よりも少し小さい花菱の屋敷で花菱家、4男の冬は大広間から自分の部屋に戻ろうと廊下を歩いていると、何かが横を全速力で通り過ぎた。
いったい何事かと後ろを振り向くと、冬は目を見開いて叫んだ。
何故ならそこにはここにいるはずもない人物がいたからである。
「姉さん!!」
設楽の家に嫁いだはずの姉、美咲が泣きながら廊下を全速力で走っていたのだ。
ついに終わってしまった。
終わってしまったのだ。
全部…全部!!
あの後、全速力で翔くんの前から逃げたわたしは設楽の屋敷にいることが耐えられず、携帯だけ持って、誰にも言わず屋敷から飛び出した。
もう全部、全部終わってしまった。
戻れない、戻れるわけなかったんだ。あの頃には…もう…
あんな夢物語のような幼いころにはもう…
涙を流しながらわたしがたどり着いた先は、生まれてから設楽に嫁ぐまで住んでいた花菱の家だった。