「中でも苦労したのは熊のぬいぐるみです」
「…は?」
いきなり思いもよらないキーワードが出てきて、思わず口を開けてしまった。
いや、だってさっきまでなんか真面目に話してたのにいきなりぬいぐるみって…えっ?本当に何話してるんですか?ひばりさん!
わたしの心の中のつっこみに気づかず、ひばりさんは話し続けた。
「とってもお気に入りの熊のぬいぐるみを持っていたんですよ。本当にぬいぐるみが好きすぎて、四六時中ずーっと一緒にいたんですよ。少しでもぬいぐるみと引き離すと、すぐ泣いちゃって、その姿は本当に可愛かったんですよ、男の子で熊のぬいぐるみが好きなのは珍しかったんですけどね。写真もあるんですけど、今日は持ってきてないんですよ」
わたしに写真を見せられなかったのがよほど残念なのか、ひばりさんはしょんぼりと肩を竦ませた。
いや…あの、はい?
もしひばりさんが翔くんのことを話してるんだったら、かなり引きます。
だって、わたしの記憶の中じゃ翔くん、熊のぬいぐるみなんて持ってませんでしたよ。
翔くんが興味があったのはいつも仕事のことばかりで、そんなファンシーのふぁの文字さえ翔くんの周りには見当たらなかったですけど…
でも、わたしが翔くんの記憶があるのは4歳のころから。
その前から美咲は翔くんにべったりだったのよーってお母さんたちに言われてるけど、そんな小さいころから記憶なんて曖昧すぎて覚えてないし…
翔くんが生まれた時から見てきたひばりさんが言ってるならもしかして本当にそんな翔くんもいたかもしれない。

