えっ!?えっ!?
混乱したまま振り向くと、いつものように笑顔の桂さんがお辞儀をして翔くんの後を追う姿をわたしは呆然と見送った。
つかつかと早足で長い廊下を歩く翔は自分を追ってくる足音でピタッと足を止め、振り返り、自分を追いかけてくるであろう男を睨んだ。
「…騙したな、桂」
「騙しただなんて、人聞きの悪い。ただわたくしは翔様が美咲様の様子を気にしてらしたので、正直にお答えしましたが?」
いつものような笑顔で淡々とした答えに腹を立たせながらも、翔は冷静を装いつつ話を続けた。
「正直に?お前、確か昨日の夜、あいつは泣いていたと言ってたよな?」
確かに言った、ちゃんとこの耳で聞いた。
『美咲様は自室で声を押し殺しながら泣いていました。よほど、翔様のご病気にショックを受けたのでしょう』
と…
あの時は熱で馬鹿正直に信じてしまったが、今考えると今のあいつは昔のあいつとは違う。

