翔くんは昔からなんでもない振りをするのが得意。
小さい頃からずっと見てきたのだ。
きっと今もわたしが知りもしない何かにきっとすっごく怯えてるのだろう。
それに気付いたわたしは何も聞かないことにする。
ただ静かに暖かく懐かしい大きい手をソッと握り締めて、この小さな震えを和らげること。
わたしがそっと手を握り締めると、翔くんも握り返してきた。
心臓がとくんとくんと心地よく跳ねて、何かとても懐かしい気がしてくる。
そんな静かな雰囲気の中、車はとある大きなビルの前で止まった。
…てか、ここって…
「本社に着きました。翔様」
そう言って、翔くん側のドアを開けた桂さんを見て、わたしは唖然とした。
ほ、本社って…まさか…設楽の…?
ぱっと握っていた手を離し、とっとと車を出る翔くんの後姿を見て、わたしは何故か声をかけてしまった。
「か、翔くん!!」

