そう言うと、桂さんは『かしこまりました』と深くお辞儀をして、食堂から出て行こうとした。




「ま、待て!勝手な真似はするな!」




焦るように席から立ち上がった翔くんをわたしはギロリと睨んだ。




「何言ってるの、翔くん?桂さんはわ・た・しの使用人のはずでしょう?」




『設楽の屋敷に慣れるまでの間、わたくしは美咲様の使用人でいろと翔様からのご命令です』




「桂がお前の使用人であるのはあくまでも屋敷に慣れるまで。お前は既にこの広い屋敷には迷わずに何処までも行けるだろうか」




「それはなんのことでしょうか?わたし、まだまだこの屋敷にはちーっとも慣れてませんよ」




拗ねた子供のようにツーンと翔くんから顔を逸らして、冷静を保っていたが、腹の中では怒りが沸々と煮えたぎっていた。




だって、わたしだけが結婚指輪をはめてるなんておかしな話。




すんごい決心でいろんなものを受け取ったのだから、翔くんも背負ってくれなければ納得いかない。




「ただいま戻りました」




桂さんが手に小さな箱を持ちながら食堂に入ってきて観念したのか翔くんは納得いかないという顔でまた席に座った。




わたしは桂さんからその箱を受け取り、それを開けた。