「…おはよう、ございます…。」
 やっとの思いで返したのだろう事は明らかだった。
 少女は、姿形はあの朝のままだが、僕に挨拶をしてきた少女とはどうも違うようだ。声をかけた僕までもが戸惑いの中で言葉を失った。そして僕は、照れ隠しの苦笑いを残して、少女の視界から退いていった。
 やがてあの朝と同じようにバスが少女を連れ去り、僕はバス停に取り残された。
 混濁だけが渦巻く心を、僕は何とか押し留めながらバス停のベンチにゆるゆると腰を下ろす。見てはいけないものを見た気分だった。