目を閉じていてもたどり着ける、ぐらいの気軽さと、会社訪問の緊張がない交ぜになって、スーツに締め付けられた首のコリをほぐしながら唸ってみる。
 首を回した瞬間、僕はふと、動きを止めた。僕の並んでいる列の前方に、いつか見た風景、いや、正確に言うといつか見た風景の一部があった。
 少女だった。
 いたのである。あの朝、僕の目の前で桜色の頬を3月の空気に輝かせていた、あの少女である。初めは後姿しか見えなかったのだが、少女が不意に後ろを振り返った瞬間、僕の疑いは確信に替わった。確かに、あの少女である。