僕は、涙を拭うと照れ隠しに少し笑って、「ごめん」と頭を下げた。事情はともあれ、目の前の少女を抱きすくめてしまったのだから。それから、
「姉さんが、さよならって、君によろしくって、言ってた。」
 その刹那、少女の両目から涙が溢れ出し、少女は声をあげて嗚咽し始めた。僕のまぶたからも今一度涙が零れだした。人目を気にできるほど、現実味は無かった。

 少女を気遣いながら再び歩き始めるとき、僕は振り返って彼方のバス停を見た。涙で歪む風景の中、小さくなったバス停から、1台のバスが発車していった。

fin.