そして、僕の頬に少女の柔らかな唇があてがわれ、少女の腕に力がこもった。僕の頬を濡らすのは少女の涙だ。
 まだ正午前の明るい日差しの下ではあったが、僕はそれに応えようと、目を閉じて抱きしめ返した。そして、「アリガトウ、さよなら」と言った瞬間、僕の閉じたまぶたからも淋しさが溢れ出した。
 やがて二人が身体を離すころには、「あの朝の少女」はいなかった。ただ、「姉の魂に体を貸していた少女」が、戸惑いながらいるだけだった。
 少女は、僕の涙の訳も、自分の涙の訳すら理解していなかったが、何か大切なことがあったことだけはわかっていたようだった。