僕は前の席の背もたれに身を預けたまま、もう一度溜息をついた。どうしようもない喪失感が、僕の五感を凍えさせ、少女の言葉を受け入れる以外に何も出来なくなっていた。
 少しの沈黙のあと、ためらいがちに少女は再び話し始めた。
「…もしかしたら、ですよ。私の多重人格は、病気じゃないのかもしれない、って。本当に、私の体の何処かに、姉は思いを込めてこの世を去ったんじゃないかなって。」
 僕は少女の意外な言葉に、ふと顔を上げた。しかし少女の横顔を見ながらも、まさか、とも、そうだね、とも言い出せずにいた。