その少女が今、僕の言葉を待っていた。少女の待ち遠しげな視線が僕を捉え続けている。そう感じるだけで、喜びと驚愕に僕の心は右往左往し、更なる迷いに囚われていく。言葉が、声が、出ない。
『ボクハキミノコトガスキダッタンダ』。
 やがて少女を連れ去る為に、定刻どおりにバスが着く。バスのドアが閉まり、薄くブルーのかかったガラス越しの少女は僕の声が届かない所へと去っていく。少女の寂しげな瞳に、力なく、だらしなく挙げた僕の右手は、見えていたのだろうか。