「おはようございます。」
 投げかけられたその言葉に、僕は振り向いた。
少女がいた。
 ショートカットの前髪がさらさらとなびくその下で瞳が輝き、ふくよかな頬がまだ肌寒い3月の朝の空気に触れて桜色に染まっている。
 僕がその少女と出会ったのは、僕が高校2年生になったばかりの頃、同じバス停で別のバスを待っていた。それから2年間、僕は毎朝の様に少女を見つめていた。言葉を交わすこともなかった。でも、僕にはその僅かな時間こそが、貴重な宝物だった。