しとしとと。
昨夜から降り止まぬ雨が、ゆっくりと街の景色を飲み込んでいく。
とぷとぷと相も変わらず重ったるい一滴が落ちる。

ぱたぱたと急ぎ足で走り去るサラリーマン。
大きな傘を広げ、ピタリと寄り添うように歩くカップル。

何気ない雨の日のその光景を眺めていると―――ふと柔らかい声が耳朶を叩いた。



「絢、―――I Love You」


「…ん?」


「―――の意味、知ってるか?」


スゥ…と僅かに目を細めながら突然そんな言葉を投げ掛けてきた相手の顔を凝視する。
そこに隠しきれていないからかうような光を含んだ瞳に気付いて、私は口を尖らす。



「なにそれ…いきなり変なこと言い出さないでよ」


「拗ねんなって。ただ気になったんだよ」


「私の読書を妨げてまで?」


「…あいっかわらず、」



可愛げのねぇ女だな、と私を詰りながらもその声色は優しく。
そして同時にスルリと伸ばされた指先に私の髪を絡ませ、愛おしむように唇を落とすその仕種に、何故だか無性に泣きたくなった。



「愛してる、でしょ?」



それを気付かれたくなくて、少し俯きながらそう返すと、見えてないはずなのに、向こう側で空気が綻んだ気がした。