もう一人

一秒一秒は長く感じるが……日にちが進むのは早く感じる。
怖い。
死亡時刻に合わなくなるのが怖い。
とりあえず目的地の駅を通りすぎないようにしっかりと耳を研ぎ澄ます。
頼む。俺の為に利用されてくれ。
自らの手を汚す事なく「もう一人」を殺めたい。
法で裁けない殺し方をしたいのだ。
俺は状況を作るだけ。
その状況に応じて奴は犯罪を起こすのだ。
もちろん成功させるのは難しい。
殺人は例え死を免れる為の足掻きであっても世間で悪と呼ばれる。
道徳的に正しくないのはもちろんわかる。
だが否定するだけの事は誰でも出来るのではないのだろうか？
俺は周りに認められなくても生きる。
居場所がなくても、理解者がいなくても生きる。
孤独でも醜くても生きる。
何がなんでも俺は生きる。

「生きたいから生きる。」

これは答えとして充分な筈だ。
「生きるとはどういう事だろう。」
そんな疑問も少し抱いたが道徳的に死ぬのは構わない。
物理的に生きていればそれでも構わない。
人生を生きなくても世界で生きれるのであれば俺は構わないのだ。