もう一人

二枚のチケットを鞄のポケットにしまい、俺は家を後にした。
待ち合わせ場所に行くために電車に乗った。
俺は電車に乗りながら辺りを見回す。
「もう一人」に奇襲をかけられないかが不安でならない。
だが周囲にあるのは変わらぬ日常。
人々の馴れ合いやいがみ合い。
どいつもこいつもくだらねえ。
頭で何も考えずにずっと無意味な時間を過ごしている事は間違いない。
それは俺もそうだった。
つまらない日常を何となく生きていて不満を抱いていた。
いざ非日常が訪れればそれに抗おうとする。
日常の中では生きる事に意味を感じず非日常の中では生きようとする。
俺はそんな自分が嫌いだが、死ぬのは怖い。
俺は生きたい。
「もう一人」との出会いは人生最大の悲劇でもあり学習でもあった。
「当たり前」のありがたみを知った。
日常的な世界で生きる事は安息が約束されているのと同じだ。
俺は今、非日常に対する不安で苛立っていた。
ヘタをしたら「もう一人」に殺される。
ヘタをしたら不可抗力で死ぬ。
拭いきれない恐怖を背負って俺は今、非日常を生きている。
あの対面を思い出す度に背筋が凍りつく。
怖い。
…怖い。