もう一人

まさか警察も被害者と犯人が完全に一致した人物だとは思わないだろう。
何より刃物に付いた指紋を調べた警察はこれを「自殺」として判断するだろう。
僕は生き残れる。
だが何の苦しみも伴わずに死ぬ事と生きる事…。
どっちが僕にとって幸せはわからない。
時間は沢山あるからゆっくり考えるべきか…。
それとも死ぬ事を前提に残された時間を大事にして楽しい事を沢山するべきか。
「死と向き合う」
そんな言葉は使いまわされている。
親戚の死とか余命とか…。
しかし今は違う。
本当の意味で死に向き合っている。
死を選ぶか生きる事を選ぶか。
普通なら生きる事を選ぶ方が正しい人間として周囲に認識される。
だが生きる事で犠牲者が出るなら自分が死ぬ道を選ぶ方が周囲の人間にとって正しい人間として認識される。
僕は「正しさ」なんてどうでも良い。
ただ一つ僕は気になる事があった。
「死んだら人間はどうなるんですか?」
僕は聞いた。
普通なら死ぬ事は「無になる事」と考える。
しかしドッペルゲンガーが実在するのであれば人の死後が永久の苦しみでもおかしくはない…。
そんな気がしたのだ。
神主は深呼吸をしてから呟く。
「罪を重ねた者が死んだら罪悪感によって自縛霊になる。
よって地獄とは罪悪感すら感じない本当の悪なら通らない所だ。
だがそんな悪は世の中にいない。
罪を重ねずに死んだ場合、思い残す事もないから死んだ事を悔やむ事もない。
そんな霊の居る場所は地上であり浄土だ。
死ぬ事は決して縁起の悪い事じゃない。
死は人生の出口だ。
生き方さえ後悔しなければ死ぬもまた良し。
私はそう考える。」