もう一人

内藤の家に行くためにまた電車に乗る。
もう一人に再び会えないかと期待をしていたが特に鉢合わせはしない。
さっきと違う時間に電車に乗っているから当たり前だろう。
勿論そんな事はわかっている。
僕はあの出会いがあったからこそ余計に今の状況が平凡に見える。
退屈だった。
皆が楽しく会話をしていた。
僕も表面上だけ溶け込む。
人の陰口の話題が多い。
こんな話の何が面白いかはわからないが僕は愛想よく接しておきたい。
だから話に入った。
つまらない。
本当につまらない。
だがかといって僕が面白い事を言うのは無理だ。
「もう一人」の話も話したところで誰も信じないはわかっている。
だからその事を話すつもりはなかった。
僕は滅多な事では己の感情を表に出さない。