もう一人

やがては新中野についた。
僕が電車を降りて改札を潜るとあいつがいる。
内藤だ。
他にも友人を連れてきているようだ。
不自然に仕草の多い女がいる。
ああいう女は大抵自己主張が多くて何かと面倒だ。
関わりたくない。
だがあろうことか女は僕に近付いてきた。
来るなよ。関わるなよ。
僕に興味があるのか?
「君に合うの初めてだね!
ウチは沙織!
逢沢沙織(あいざわさおり)って言うの。
とりあえずよろしくね!
君はなんて言うの?」
馴れ馴れしいな。
僕の嫌いなタイプだ。
しかし僕も社会的な場に踊らされている人間の一人だ。
僕は答えた。
「僕は沢田和成。
よろしく。」
まだ女は満足していないのか僕に更に話し掛けてきた。
「あ!このストラップ『幻想具現師ユウト』だよね!
ウチも見てるー!
烏黒(うぐろ)さんかっこいいよね!」
幻想具現師ユウト……。
僕の好きな漫画だ。
だが趣味が合ったからといって馴れ合いたいとは思えない。
何よりあいつは鬱陶しい限りだった。




※「幻想具現師ユウト」は筆者が適当に考えたありそうな漫画のタイトルです。
多分実際にはそんな漫画ありません。