もう一人

「もう一人」が降りて日常的な電車に戻った車内。
だが車内には僕をじっと見ている人が数人いる。
同じ人間が二人いる事に違和感を持っているようだ。
無理はないだろう。
僕自身これは驚くべき事なのだから。
ドッペルゲンガーという奴であろうか。
しかし向こうは確かに僕を見て怯えていたのだ。
まるで自分が異端である事をその瞬間まで自覚していなかったのようだ。
それは僕も同じ事が言える。
同じ人間であり互いにそれなりの意思や思考を持っている。
そして彼は冷静には慣れていない事にも気付いた。
彼は最後まで安心した顔を見せなかった。
ずっと怯えていた。
冷静な判断が出来る人間なら僕が化け物ではない一人の人間だと判断する筈だ。
勿論僕も違和感は感じていた。
だがあれほどの恐怖を感じはしなかった。
警戒心を持つ事は生きる上で必要だと僕は思っている。
しかし警戒心を持ちすぎても平常心を失う事になるのだろう。
僕はただ神経質に生きる。
全体より細部に目を向けて生きる。