新中野まではまだまだ時間がある。
ここでもう一人の自分を観察して起きたかったがもう一人の自分は他の駅で降りてしまった。
電車の窓に透かして自分の顔を見てみた。
左右が反転しているからこれは僕じゃない。
僕以外に僕である者はあの「もう一人」だけだ。
「もう一人」も表情が僕と同じだ。
あの目は理解者を求める者の目。
そして信じる対象がいない者の目だ。
この出会いは果たして幸運か不幸か。
この時はまだ知るよしもなかった。
一ヶ月で死を迎える事などまだ知るよしもなかった…。
僕はむしろ浮わついていた。
僕はこれを奇跡としか見ていなかった。
心の壁のいらない対象が現れたのだろうとしか考えていなかった。
僕は寂しかっただけかも知れない。
わかってくれる人が側にいてくれる事を望んでいたのかも知れない。
僕はもう…独りじゃない。