せなかったため、別居のままの宙ぶらりん状態がそれから二年も続いた。その
間に、母は、恭子が生まれる前に勤めていた出版社を頼って、翻訳の仕事に就
くようになった。元々,才気立っていた母は、すぐにブランクを取り戻すこと
ができ、親子二人が食べるのには困らないほどの給料をとってくるようになっ
た。父は、可南子にせがまれて離婚届に判をおしてくれるよう、何度か母の元
を訪れた。この目黒のマンションも親権も全てを譲るからと、こちらに有利な
条件を出して懇願する父の態度が、余計に母の心を頑なにさせた。母は、その
上に、まとまった慰謝料と恭子が成人するまでの毎月の養育費を請求した。お
金に綺麗だった母の、二人をがんとして結びつけまいとの意地からだった。そ
れほど、母は父のことを憎みながら愛していた。
父は、飛び抜けて美形という顔立ちではなかったが、中高なすっきりと整った
知的な容貌が、都会的で洗練された雰囲気とうまく合
