泣いて俺にすがる佐藤先生を、先がとがった靴で蹴飛ばして俺は階段を下りた。
すると、階段の真ん中あたりで座り込んでいる白衣姿の男がいた。
塚本先生だ。
さっき袖に赤いものが付いていたのを思い出したが、変に避けると怖いから平静を装うことにした。
「おっと。この空気の振動からすると、あなたは松下先生ですね?」
「・・・こんにちは」
やはり塚本先生だ。
観察力がずばぬけている。元FBI捜査官という噂ももしかしたら本当かもしれない。
「沈黙が2.8秒・・・上山田先生と同じですね。」
「上山田先生が何ですか!?」
「いつも返答に最低でも2.5秒以上かかる松下先生が0.7秒で返事・・・・と。」
塚本先生は手帳の<松下>というページを開くと何かを書き込み始めた。
チラッと後ろから覗きこむと、「ゲイの疑いあり」と走り書きされていたが、あえて何も言わないでおいた。
「松下先生に良い話を一つ。上山田先生には彼女ができたようですよ。意気地無しのあなたが上山田先生への気持ちを伝えられず、佐藤先生と性行為をしようとしていた間にですよ。」
「・・・」
「心が沈んでいますね?もう一つ良い話を・・・」
「もうやめてください。」
もうこれ以上上山田先生の恋愛話なんて聞きたくない。
あの悲しそうな顔も、昆布みたいな顔も、全部ウソだったっていうのか。
俺は塚本先生への恐怖など忘れて階段を降りようとした。

