春がやって来て、ティルとアテネが五歳の誕生日を迎えた。

「お誕生日おめでとう、双子ちゃんたち」
ポールが祝福の絵を掲げてやって来た。
「ポールさん、来てくれたの!」
アテネがポールに駆け寄っくる。
「アテネお嬢様、髪を結っている途中ですわよ!」
廊下からくしを持ったケリーがやってきた。
「大変ですね」
「えぇ、大きくなってからは悪さを…」
言いかけていた途中なのだが、アテネが腕を引っ張って部屋に入っ行った。


いろいろな食事が並べられ、沢山の人が伯爵邸にやって来る。
「アテネ、可愛いドレスだな」
ロタがアテネの頭を撫でていたが、レイヴンが腕を掴んだ。
「なんだよレイヴン」
「お嬢様の髪が乱れます」
「愛しい我が子があたしに触られないよ見てろ、ってエドガーに命令されたんだろ」
「は…、いいえ」
いつも無表情のレイヴンだったが、ここ数年で表情を見せるようになった。
「なんだよ、エドガーに文句言わなきゃな」
ズタズタ歩いってく。
「レイヴン、ロタさんとポールさんはいつ結婚するのかしら」
アテネが聞いたが、
「わかりません」
そうよね、とため息をついた。
「アテネ、どこにいるの?」
リディアがアテネを探し歩いている。
「お母様が呼んでるわ、隠れましょう」
レイヴンの手を引っ張ったが、レイヴンは首をふった。
「駄目です。リディアさんが呼んでいます」
アテネはため息をついた。
「あなたってつまらないのね」
頬を膨らしていたら、
「アテネ!探したのよ。さぁ早く皆さんに挨拶にに行きなさい」
リディアに捕まり引きずられながらホールに向かった。


ホールの隅に男の子が立っていた。
彼は『若君』と呼ばれ、今日誕生日を迎えたばかりだ。
「ティル!」
名前を呼ばれ体を硬直させ振り向くと、自分と瓜二つでハニーブロンドの女の子がやって来た。
「なんで主役のくせにこんな隅にいるのよ!」
いつもの様にガミガミ言っているのは、双子の姉。
「でもアテネ、僕パーティーは苦手なんだ」
俯くと、
「私が隣にいるでしょ…」
照れながら手を差し出す。差し出された手を見つめ、頬を染める。
「そうだね」
アテネの手をとったとき、何処からか歌が聞こえてきた。
「アテネ、歌が聞こえるね」
「えぇ、とても綺麗な声だわ」
アテネにも聞こえていた。二人で歌が聞こえる部屋に向かった。
「この部屋からだよ」
伯爵邸で普段使わない部屋から、歌声が聞こえる。