「そ、なら良いや」
彼は短くそう言うと、
うるさいぐらいにマフラー音を
響かせた車を走らせ信号を右折した。
甘いカー香水の匂いと
煙草特有のほろ苦い匂いを残して。
今拓真の存在が脳内で
薄れているのは、きっと
彼が一瞬見せた切ない表情が
私の目に焼きついているから。
彼にあんな顔をさせる
髪が長くて身長が高くて綺麗な女の人。
たったそれだけの
アバウトな人物像だったけれど
彼が想いを寄せている人だって
ことぐらい馬鹿な私でもわかる。
そんな彼の気持ちが
今の私には痛いほどわかるから、
また胸がぎゅっと締めつけられる。
