そんなあたしの存在を知らない麻生先輩と女の人はそのまま話していた。



「彼女、今日は来なかったのね。


あなたにしては、ずいぶん純情なタイプを側に置いたじゃない?

はじめ、知った時はどういう風の吹き回しかと思ったわよ」


「そうだね。

あんまり近づいてこないタイプだったから、珍しくて置いてみたんだよ。

飽きられたのかもしれないね」


先輩はそう言って女の人の前に手を回す。


「うそ。

あなたを飽きるなんて、有り得ないわ。


ねぇ、あの娘は、こんなふうに抱いたの?」

女の人の開いたカッターシャツの中に、手を忍ばせていく先輩。


女の人は気持ちよさそうに背中をそらした。

同時に、女の人の甘ったるい声が耳に入ってくる。



……ズキン。

また、あたしの胸が痛みはじめる。


だって……されてないから。

軽いキスはしてくるけど、あたしには触れてこないから。



「抱かないよ。

彼女は抱かない」



――――抱かない。


この言葉に、あたしの胸はいっそう痛みだした。




……痛い。


胸が痛い。






笑い合うふたりを、見ていられなくなった。


唇を噛みしめれば、苦い味が口いっぱいに広がる。

ほっぺたに触れてみてわかった。


涙だ。


あたし……泣いてる。







もう、これ以上は先輩の会話も姿も入れたくなくて、

あたしはカバンの中に入ったままのチョコレートを握りしめて教室を後にした。