一階にある1年5組の教室から、三階の麻生先輩の教室まで、一気に階段を駆け上る。
8組を示すプレートを確認して立ち止まれば…………。
「もう、久遠(くおん)ったら~」
中から女の人の声が聞こえてきた。
麻生先輩は、どうやら女の人といるようだ。
教室の中には入らず、ドアの前で立ち往生をするあたし。
ちょこっとだけ好奇心があったものだから、少し開いていた教室のドアから中を覗けば…………。
麻生先輩と茶髪の綺麗な女の人の姿が見えた。
敬語じゃない話し方ををしているところから察するに、麻生先輩と同じ学年みたい。
麻生先輩と女の人以外、他には誰もいない。
女の人は麻生先輩の膝に乗っかって、クスクス笑っていた。
……なんだろう。
麻生先輩は女の人とそういうことをする人だと知っていた。
知っていたのに、あたしの胸がギュっとなる。
苦しくなる。
「ねぇ、そういえば、今日はあの娘、来てないんじゃない?」
「あの娘って?」
「もう、久遠忘れちゃったの?
一年生のかわいい女の子。
三日前に告白されたって言ってたじゃない?」
三日前の告白。
あたしのことだ。
「ああ。
そういえば、いたね」
ズキン。
ショックだ。
だって、あたしは麻生先輩のことを毎日、毎時間、忘れたことがないってくらい考えているのに、麻生先輩は違った。
あたしのことなんて、すっかり忘れられてた……。



